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M&A契約における「表明保証」とは?財務・税務DDの結果をどう活かすか解説

はじめに

M&Aの成功には、買収対象のリスクを正確に把握し、適切に管理することが不可欠です。このリスク管理において中心的な役割を果たすのが、「表明保証(レプワラ)」です。

表明保証とは、対象会社に関する情報が正確であることを売主が買主に保証するものです。これはデューデリジェンス(DD)で見つかったリスクに対応するための重要な手段となります。

とはいえ、表明保証の活用は内容が専門的であるため、「よく分からない」と感じる方も少なくありません。

そこで本記事では、表明保証の基本的な考え方、DDの結果を表明保証へ効果的に反映させる方法、さらに財務・税務関連の具体的な注意点を、実務的な観点から詳しく解説します。

M&Aにおける表明保証(レプワラ)とは?

表明保証とは、売主が買主に対し、M&Aの対象会社や事業に関して、特定の時点における真実性と正確性を表明し保証するものです。英語では「Representation and Warranty(レプレゼンテーション&ワランティ)」と表記され、一般的に「レプワラ」と略されます。

表明保証に違反があった場合、買主は売主に対して損害賠償を求めることができます。

表明保証の目的

表明保証の主な目的は、以下の3点です。

  1. リスク分担
    買収後に判明した問題について、売主・買主のどちらが責任を負うのかを明確にします。
  2. 情報開示の促進
    売主に対して、契約前に正確かつ十分な情報を開示させる動機づけとなります。
  3. 救済措置の根拠
    万が一、売主の表明内容に虚偽や誤りがあった場合、買主が契約解除や損害賠償を請求するための法的根拠となります。

表明保証の役割

表明保証は、DDの結果と密接に関係しています。DDによって判明した問題やリスクは、表明保証の内容を定めるうえで重要な交渉材料となります。

たとえば、DDで未払残業代のリスクが見つかった場合、買主はそのリスクをカバーするための表明保証条項の追加を売主に求めることがあります。

また、表明保証は単に契約上の文言にとどまらず、買収価格の妥当性を判断する前提情報としても機能します。売主による保証の内容を踏まえて、買主は対象会社のリスクを評価し、それに見合った価格で交渉を進めていくことになります。

表明保証の主な内容(一般的項目と財務・税務関連項目)

M&A契約の表明保証では、売主が保証する事項の真実性と正確性が明確に定められます。 ここでは、主要な表明保証項目を「一般事項」「財務関連」「税務関連」に分け、ご紹介します。

一般的な表明保証項目

項目内容
会社の組織・権限適法に設立され、運営されていること。
株式発行済株式が有効であること。
法令遵守事業に必要な法令を遵守していること。
訴訟・紛争不利な訴訟や紛争が存在しないこと。
重要な契約開示された契約が有効であること。
知的財産権知的財産権が適切に管理されていること。
従業員・労務労務関係の問題が存在しないこと。
環境環境関連法令の違反がないこと。

財務に関する表明保証項目

項目内容
財務諸表の正確性・網羅性会計ルールに則り、財政状態および経営成績が正しく網羅的に表示されていること。
簿外債務等の不存在財務諸表に記載のない重要な負債が存在しないこと。
会計処理の妥当性会計方針が継続して適用され、特定の取引に関する会計処理が適切であること。
売掛金・棚卸資産評価の妥当性売掛金の回収可能性が適切であり、棚卸資産が適切に評価され評価損が計上されていること。

税務に関する表明保証項目

項目内容
税務申告の適正性・適時性法令に従い、税務申告が適正かつ期限内に行われていること。
未納税額・追徴課税リスクの不存在未払税金や将来の追徴課税リスクが存在しないこと。
税務調査の状況・指摘事項過去の税務調査の状況や、指摘事項の有無およびその内容が正確であること。
繰越欠損金の引継可能性M&A後に、買主が繰越欠損金を引き継げる可能性があること。

これらの項目は、実施されたDDの結果を元に形成されます。買主が抱える潜在的なリスクを明らかにし、取引の安全性を確保するための基盤となります。

デューデリジェンスと表明保証の連携

ここでは、DDと表明保証がどのように連動し、特に財務・税務のリスクに対してどのように契約上の保護に結びついていくのかを、具体的に解説します。

DDの目的と表明保証の関係性

DDの目的は、対象会社の実態把握と潜在リスクの発見です。しかし、情報や時間の制約があるため、全てを完璧に把握するのは不可能です。そこで表明保証は、DDでは発見・確認しきれなかった事項について売主から保証を得ることで、買主のリスクを軽減する「補完」の役割を果たします。

財務DD・税務DDの結果と表明保証への反映

DDの種類リスク・検証事項表明保証への反映(例)
財務DD不適切な会計処理、過大な引当金、回収不能な売掛金、将来の支払義務、簿外債務など具体的な表明保証条項(収益認識の適切性、必要な引当金の計上など)に落とし込む。DDで検証が不十分だった事項は、包括的または特定の表明保証でカバーする。
税務DD繰越欠損金の利用可能性、申告漏れ、税法解釈の相違による追徴課税、移転価格税制に関するリスク、税務上の偶発債務など具体的な表明保証条項(税務処理の適正性、補償の明確化など)に落とし込む。税務上の偶発債務には、包括的な表明や税務調査の状況に関する表明が重要となる。

ディスクロージャー・スケジュール(開示書面)の活用

DDの結果を踏まえて具体的な表明保証条項が定められる一方で、売主が保証できない事項や例外事項については、契約上「ディスクロージャー・スケジュール(開示別紙)」により明示されます。

これは、売主が表明保証の例外事項などを記載する書面であり、そこに記載された事項は原則として、表明保証違反とは扱われません。買主は、その内容を精査しリスクの許容度を判断することができます。

ディスクロージャー・スケジュールは、表明保証条項の実効性を担保する一方で、売主・買主双方の責任範囲を明確化するための重要なツールであり、DDと表明保証を結びつける最終的な調整手段ともいえるでしょう。

表明保証違反と取るべき対応

表明保証違反とは、売主が契約上保証した内容と実際の事実が異なっていた場合に成立する契約違反の一種です。何らかの表明保証違反が生じた場合、買主はその損害について救済措置を求めることができます。

ここでは、表明保証に違反があった場合に、買主がどのような対応をとることができるのか、また実際に補償を受けるための条件や注意点について解説します。

表明保証違反の定義

M&A契約書において売主が契約で表明・保証した内容が、契約締結日やクロージング日などの基準時点で真実・正確でなかった場合を指します。違反の判断には「基準時」と「重要性」が考慮されます。

表明保証違反が判明した場合の買主の権利

表明保証違反が発覚した場合の買主の権利は、判明したタイミングによって異なります。

  • クロージング前
    重大な違反が判明した場合は、クロージングの拒否、契約解除、価格調整などの交渉が可能です。
  • クロージング後
    一般的には、契約で定められた補償請求(Indemnification)によって、損害の回復を図ります。

補償請求の具体的内容

補償請求に関する範囲や手続きの詳細は、M&A契約書の中で個別に定められており、補償の対象となる損害の内容や請求方法、金額上限、期間などが明文化されます。

  • 損害賠償の範囲
    通常は直接損害ですが、契約により間接損害や弁護士費用も含まれる場合があります。
  • 補償上限額(Cap)
    売主が負担する賠償額の上限のことです。買収価格の一定割合などで設定され、特に重要な項目については適用が除外されることもあります。
  • 最低請求額(Basket/Deductible)
    少額請求を制限する仕組み。損害全額を請求できるバスケット方式と、免責額を超過した部分のみ請求できるデダクティブル方式があります。
  • 請求期間(Survival Period)
    補償請求が可能な期間。通常1~3年ですが、税務・権利関連はより長期に設定される場合もあります。
  • サンドバッギング条項
    買主が表明保証違反の事実をクロージング前から知っていた場合でも、補償請求ができるか否かを定める条項です。

表明保証でリスクをカバーできない場合の対応策

表明保証違反に関する取り決めがあっても、売主の支払能力が不足していたり、売主が投資ファンドなどでクロージング後に解散・清算された場合、買主は実質的に補償を受けられないリスクがあります。

このように、表明保証が機能せずリスクを十分にカバーできないと考えられる場合、買主は以下のような対応策を検討することが一般的です。

1.買収価格への調整

最も一般的な対応が、企業の買取価格の調整です。これは、表明保証では対応しきれないと判断されたリスクの想定損失額を買収価格からあらかじめ減額しておく方法です。
これにより、将来的に損失が発生しても、買主はその影響を価格面で事前にヘッジすることができます。

2.支払方法の調整(分割払い・エスクロー・アーンアウト) 

支払い方法を調整することも、こうしたリスク対応の有効な手段のひとつです。主な方法は下記の3点です。

  • 分割払い
    買収代金を複数回に分けて支払う方法です。M&A成立時に一部を支払い、残りは一定期間後に支払うことで、万が一買収後に問題が発覚した場合でも、残額を調整することで買主の損失リスクを抑えることができます。
  • エスクロー
    買収代金の一部を中立な第三者に預託し、問題がなければ売主へ、問題発生時には買主への補償に充てる仕組みです。特に売主の信用力に懸念がある場合に有効な手段です。ただし、預託先への手数料が発生します。
  • アーンアウト条項
    買収後に対象会社が特定の業績目標を達成した場合に、追加の買収代金(アーンアウト)を支払う仕組みです。将来の業績が不確実な場合でも、売主と買主の双方にとって公平な価格調整を行える点がメリットです。

3.譲渡スキームの変更 

M&Aの取引構造(スキーム)を見直すことも有効な手段のひとつです。
たとえば、株式譲渡では対象会社の権利・義務をすべて引き継ぐことになりますが、事業譲渡であれば買収する資産・負債を選択できるため、リスクの高い部分を除外して引き継ぐことが可能です。
ただし、事業譲渡は下記のようなデメリットがあります。

  • 各種契約・許認可の名義変更や再取得が必要
  • 従業員の再雇用手続きが発生する
  • 対象事業の範囲や引継資産の選定が煩雑になりやすい

このような手続きの煩雑さや許認可再取得の必要性などが生じるため、採用にあたっては総合的な判断が必要です。

これらの対応策ではリスクを十分にカバーできない場合、表明保証違反による損害を補償する表明保証保険(R&W Insurance)の利用も考えられますが、日本ではまだ活用事例が少なく、コストや実務面の課題から活用は現時点では限定的です。

これらの対応策は、M&Aの具体的な状況やリスクの性質、当事者間の交渉力などに応じて、組み合わせて用いられる場合もあります。


いずれの対応策を選択し、どのように組み合わせるかは、M&Aの具体的な状況やリスクの性質、法務・財務・税務等の専門的な知見を要するため、早期に専門家へ相談し助言を得ながら慎重に進めるのが良いでしょう。

まとめ

本記事では表明保証の基本的な考え方、DDの結果と表明保証の連携、さらに財務・税務関連の具体的な注意点などを解説しました。

M&A契約における表明保証は、買主を保護するための重要な手段です。DDでリスクを洗い出し、戦略的に表明保証へ反映させることが、M&Aの成功確率を高めます。

しかし、表明保証に関する交渉は専門知識が複雑に絡み合うため、専門家との連携が不可欠です。自社の状況とリスク許容度を総合的に勘案し、最適な表明保証のパッケージを構築することが重要となります。

徹底したDDと的確な表明保証によってリスクを適切に管理し、M&Aの目的達成を目指しましょう。

表明保証の設計やDDの進め方、リスク対策にお悩みの方は、Suinas Professional Groupにご相談ください。M&A実務に精通した専門家チームが、契約リスクを可視化し、最適な対応策をご提案します。安心かつ納得のいくM&Aを実現したい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

木下 恵一

木下 恵一

公認会計士/税理士

大学在学中に有限責任あずさ監査法人(KPMG)に入社し、法定監査をはじめ、様々な業種の会社のIPOアドバイザリー業務、海外案件を含むM&Aに係る各種デューデリジェンス、組織再編に係るストラクチャー検討支援及びPMI支援等に従事。独立開業後も、IPOアドバイザリーやM&A関連業務を展開したのち、Suinas Professional Groupに参画。

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