Suinas Consulting 株式会社

公認会計士
直通ダイヤル (平日10:00〜18:00)

03-6776-7995

  • HOME
  • ブログ
  • M&A実施可否はどう判断する?デューデリジェンス後のGo/No-Go判断の実践的フレームワーク

M&A実施可否はどう判断する?デューデリジェンス後のGo/No-Go判断の実践的フレームワーク

はじめに

M&Aにおいて、デューデリジェンス(DD)完了後に経営者が直面する最大の局面が、その企業を「買うか否か」の決断です。
DDでは、対象企業に関する膨大な調査資料が集まりますが、それらをどのように解釈しどう判断するか、迷ってしまうケースが少なくありません。
感情に流されたり一部の情報に固執して決断すると、想定していた成果が十分に得られず、M&Aの目的を果たせなくなる場合があります。M&Aを成功させるためには、DD結果を客観的に整理・評価し、冷静に分析した上で、自社の戦略に沿った判断を下すことが何よりも重要です。

本記事では、DDの結果を活用した実践的なGo/No-Go判断の枠組みについて解説します。調査結果に基づく情報の整理から、判断基準の設定、段階的な意思決定プロセスなど、判断に迷わないための具体的な手法をご紹介します。M&Aを成功に導くための実践的な考え方として、ぜひ参考にしてください。

DDの調査資料の整理・全体像の把握

適切な意思決定の出発点は、DDの調査結果として得られた情報を整理し、全体像を把握することです。ここでは、情報を体系的に整理しリスクと機会を見極める方法について解説します。

優先順位に合わせて情報を整理する

まずは、DDで得られた情報を自社の経営方針や投資戦略に照らして整理しましょう。
たとえば、買収する企業の将来の成長性を重視したい場合は、市場の規模や成長率といった市場分析や、技術力・ブランド力などの競争優位性を中心に確認します。
一方で、財務の安定性を優先する場合は、負債比率やキャッシュフローといった財務指標を重点的に確認します。

自社にとって何を優先するのかを明確にした上で情報を整理することが大切です。

性質ごとにリスクを分類する

DDの調査により、対象企業の抱える問題や潜在的なリスクが明らかになることは珍しいことではありません。こうしたリスクや問題は、性質ごとに以下のように分類します。

  • ビジネスリスク
    市場規模の縮小、保有技術の陳腐化など事業の根幹に関わる問題
  • 財務リスク
    簿外債務、収益性低下など財務上の問題
  • 法務リスク
    訴訟問題、コンプライアンス違反など法務上の問題
  • オペレーショナルリスク
    人材の流出、システムの不備など業務プロセスや人材に起因する問題

それぞれのリスクが自社にもたらす影響を評価し、企業価値や投資による収益への影響を明確にします。

この時、これらの問題を「軽微」「注意」「深刻」など段階的に分類して評価することも重要です。企業が抱えるさまざまな問題を性質や深刻さに応じて分類しておくことで、最終的な意思決定の際に有益な判断材料となります。損失額などの定量的な影響に加え、ブランドイメージの毀損や組織への影響といった定性的な要素も含めて判断しましょう。

ポジティブな要素を評価する

リスクばかりではなく、強みや将来性を視野に入れることも重要です。保有する高度な技術や優秀な人材、強固な顧客基盤など、合併後にプラスとなりうる要素を整理し、最終的な投資判断に反映させましょう。

ポジティブな要素とネガティブな要素を正確に把握することで、より客観的で戦略的な判断が可能になります。

リスクマトリックスを活用する

DDで明らかになったリスクをGo/No-Go判断に活かすには、リスクマトリックスの活用も有効です。これは、リスクの影響度(被害の大きさ)と発生確率(起こりやすさ)の2軸で整理し、優先順位を視覚的に示す手法です。

さまざまな問題やリスクを、マトリックス上に配置することで、どのリスクに最も注力すべきかが一目で把握できるようになり、勘や経験に頼らず、全体像を客観的に把握できるため、冷静で合理的な意思決定が可能になります。

Go/No-Goの判断基準の設定

M&Aを実施するかどうかの意思決定には、明確で客観的な判断基準が必要です。数値に基づく定量的な指標と、戦略や組織に関わる定性的な要素を組み合わせて基準を設計することで、感覚や経験則に頼らない一貫性のある判断が可能になります。ここでは、Go/No-Goの判断基準となる企業の評価項目の設定について解説します。

定量的なデータの評価項目を設定する

投資判断の信頼性を高めるには、案件を定量的に測る指標を設定する必要があります。特に重視すべき投資判断の土台となる指標は、以下のようなものが挙げられます。

  • 投資回収期間
    企業を買収する際に実際に投じたコストがどのくらいで回収できるか
  • 財務状況の健全性
    自己資本比率や負債比率から見て、財務面での安全性がどの程度か
  • 収益性
    営業利益率やEBITDA(利払前税引前償却前利益)がどの水準にあるか
  • シナジー効果
    買収・合併によって何らかの相乗効果が見込めるか

こうした項目を元に、買収企業の実態を定量的に評価することが、最終判断時の有力な検討材料となります。

定性的なデータの評価項目を設定する

同時に、数字では表しきれない定性的な要素も把握しておきましょう。たとえば、買収先の企業の組織文化や社風が自社と適合するか、経営陣のリーダーシップやマネジメント能力が十分かどうかなどは、統合後の円滑なPMI(経営統合)に直結します。また、業界全体の動向や規制の変化といった、外部環境への適応力も重要な視点です。

こうした定性的な要素は、財務データでは判断できない潜在的なリスクや将来的な成長の余地を見極める手がかりとなるため、事前に評価項目を明確に定義しておきましょう。

スコアリングによる評価

定量・定性両面の評価項目を設定したら、項目ごとに重要度を設定し総合スコアを算出します。自社が重視したいことに合わせて、たとえば、財務の安定性を重視する場合は「財務健全性」の比重を高め、事業拡大が目的なら「成長性」や「シナジー効果」を重視するといった設定を行いましょう。

こうしたスコアリングによって評価プロセスが可視化され、感覚や思い込みに左右されない、客観的で再現性の高い判断が可能になります。

合併後のシナジー効果の評価

M&Aの妥当性を判断するには、シナジー効果を現実的に見積もることも重要です。ここでは合併に際して企業間に起こるシナジー効果の評価について解説します。

シナジー効果とは?

買い手企業と売り手企業が合併することで、強みが組み合わさり生まれる相乗効果をシナジー効果といいます。2つの企業の強みが組み合わさることで売上が伸びたり、重複しているコストを一本化してコスト削減につなげるなど、統合によって企業価値が高まることを指します。

シナジーは大きく売上シナジーコストシナジーに分けて考え、具体的に数値化します。

  • 売上シナジー
    クロスセルによる新たな販売機会や市場シェアの拡大を、顧客データや市場分析をもとに試算する。
  • コストシナジー
    重複業務の統合や調達効率化など、実現可能性の高い施策を中心に算定する。

併せて、競合他社のM&A事例や業界データを参照し、自社の試算が妥当かどうかも検証しておきましょう。客観的なデータを活用することで、過大評価や過小評価を防ぎ、現実的な前提に基づいたシナジー評価が可能になります。

感度分析による検証

合併後に、シナジー効果が想定どおりに実現するとは限りません。そのため、前提条件が変わった場合にどの程度結果が変動するかを事前にシミュレーションしておくことも重要です。

このとき役立つのが感度分析です。感度分析は、市場の成長率やシナジー効果の実現度、統合コストなどを変化させた場合、投資回収期間や収益性がどれだけ変わるかをシミュレーションする分析手法です。

これにより、どの要素が成果に大きく影響するかをある程度予測できます。統合コストの影響が大きいとわかれば、買収後はコスト管理を最優先に強化する、といった具体的な対策につなげられるでしょう。

Go/No-Go判断の精度を上げる実践的意思決定プロセス

Go/No-Go判断を一度で決めてしまうと、見落としや判断ミスにつながる可能性があります。

数値基準による一次判定、戦略面の評価、最終条件の確認と、段階を踏んで進めることで、判断の精度を高められます。ここでは、最終判断をより確実にするための段階的なプロセスを解説します。

第一段階:定量的基準による一次判定

あらかじめ設定した投資回収期間やROIなどの数値基準をもとに一次判定を行い、明らかに基準を下回る案件は早期に除外します。

基準は客観的かつ明確にし、感情や例外を排除するため取締役会や投資委員会で事前に承認を得ておきましょう。

第二段階:戦略適合性の評価

一次判定をクリアした案件について、事業戦略との整合性、組織能力、市場環境の妥当性などを評価し、長期的な企業価値への貢献度を見極めます。この段階では、定性的な要素も評価事項に含まれてきますので、経営陣の経験や洞察力も重要です。

第三段階:最終判断と条件設定

買収を実行する場合は、価格調整、契約条件の見直し、統合計画など、成功に向けた前提条件を明確化します。
買収を見送る場合は、理由を記録し将来的に再検討の余地があるかも判断しましょう。懸念事項の解決や価格交渉を前提とした「条件付きGo」も選択肢の一つです。

このように段階を踏むことで、判断の精度と透明性を高め、リスクを抑えた合理的な意思決定が可能になります。

また、各段階では判断の根拠を記録しておくことで、統合後のずれを早期に発見・修正できます。さらに、定期的に振り返りを行えば、意思決定プロセスを継続的に改善し、M&Aの成功確率を高められるでしょう。

まとめ

本記事では、DD結果を活用したM&AのGo/No-Go判断に向けた実践的なフレームワークを解説しました。

  • 情報の整理
    DDの調査結果に基づく情報を体系的に整理し、対象企業の全体像を把握する
  • 評価項目の設定
    定量・定性の両面から評価項目を設定し、客観的に判断する評価基準を設ける
  • シナジー効果の見積もり
    合併後のシナジーを数値化・シミュレーションして検証する
  • 段階的な意思決定プロセス
    数値基準による一次判定から最終条件の設定まで、段階的に意思決定を進める。

これらのフレームワークを取り入れることで、経営者は確信を持って意思決定に臨むことができ、M&Aの成功率を高められます。さらに、「実行するか中止するか」という二択にとどまらず、将来の統合プロセスや経営改善にも活かせる知見となり、組織全体の成長にもつながるでしょう。

本記事で紹介したフレームワークが、複雑な状況下でも冷静かつ体系的に判断を行うための指針となり、読者の皆さまがM&Aを検討・実行する際の一助となれば幸いです。

M&Aの実施可否に迷っている方や、DD結果をもとに合理的な判断を下したいとお考えの方は、Suinas Professional Groupにご相談ください。財務・税務デューデリジェンスに精通した専門家チームが、膨大な調査結果を整理・分析し、リスクと機会を可視化した実践的な提言をご提供します。確かな情報に基づき、自信を持ってGo/No-Go判断を行えるようサポートをいたします。ぜひお気軽にお問い合わせください。

木下 恵一

木下 恵一

公認会計士/税理士

大学在学中に有限責任あずさ監査法人(KPMG)に入社し、法定監査をはじめ、様々な業種の会社のIPOアドバイザリー業務、海外案件を含むM&Aに係る各種デューデリジェンス、組織再編に係るストラクチャー検討支援及びPMI支援等に従事。独立開業後も、IPOアドバイザリーやM&A関連業務を展開したのち、Suinas Professional Groupに参画。

投稿一覧に戻る